虫の声が聞こえる。静かな夜にはよく響いてくる。
瞳をぎゅっと閉じて聞こえないようにしてもかえって耳について放れない。
もう何度も変えてる体の体制を変えてみるがやはり、眠気は襲ってこなかった。
「今夜は眠れそうにないな」
少女はベットから起き上がり、傍に揃えてあったブーツを履いた。
ギシッというベットの軋む音とともに少女は立ち上がる。
少しだけ外の空気に当たってみよう。そうすれば、きっとこの胸の
ざわめきもおさまってくれるはずた。
穏やかな風が、少女のやわらかな髪の毛をやさしくなでた。
外の空気はひんやりしていて気持ちがいい。
見上げた空にはそれこそ満天の星が輝き、虫の声とその輝きとが溶
け合って、幻想的な世界を作りあげていた。

いつもと変わらない夜のはずなのに。いくつもの時をこの空の下で
過ごしてきた少女。
どうしてだろう、今夜はいつもの夜とは微妙に違う。
今夜が特別な夜だからだろうか…。
少女は明日ここ、ビサイドを発たなければならない。
慣れ親しんだビサイドの村を離れるのが、淋しくないといったら嘘になる。
自分で決断したことなのだから、今更後には引けない。
そう頭では理解していても、心の中は不安で、少女の胸は張り裂け
そうだった。


気がつくと、寺院の手前の開けた場所に来ていた。
つい、数時間前に少女が正式な召喚士になった証を、村の皆の前で
披露した場所だ。
少女は瞳を閉じた。その時の光景が鮮やかに呼び起こされる。
村人が取り巻くその中心に、少女が立っている。
少女が祈り始めると、空に光が生じた。
そして、光の中からとてつもなく大きな鳥が姿を現したのだ。
少女の前にゆっくりと、巨鳥が舞い降りる。恐る恐るではあるが、
手を伸ばし、巨鳥の頭を撫でてやった。その外見とは裏腹に柔らか
な感触が、手に伝わってきた。
少女はゆっくりと、閉じていた瞳を開けた。
私、召喚士になったんだ−…。

最初は巨鳥、ヴァルファーレを呼び出せた事が、ただただ嬉しかった。
しかし、ここにきて少女は、少しずつ召喚士の自覚というものが、
自分の中に芽生えてきているのを感じた。
同時に何とも言えない不安が、少女を襲った。
それを取り払うかのように、少女はふるふるとかぶりを振った。動
きに合わせて艶やかな髪がさらりと小さな束になり滑る。
今は、この場所には居たくなかった。
そう思うと、自然と足が動き、少女は再び歩き出す。

ゆっくりとした歩調で、村の出口の方向へと足を進めていった。
ゆっくりとした歩調で少女は、歩き続けた。
後少しで村の出口にさしかかるというところで、前方に人影を見つける。
「あれは…」
心なしか歩調が早くなっていく。人影がどんどん少女の瞳の中で大
きくなった。
やっぱりそうだ。寺院で私の事を助けにきてくれた、あの人だ。
背が高くて、金色に輝く髪を持つ少年。
今は後姿だけれど、間違いなくあの少年だ。
どうしよう…。いったん少女はピタリと足を止めて、考え込んでしまう。
声をかけようか、かけまいか、悩んだがそれもつかの間。
答えなど出る前に少女の唇は言葉を紡いでいた。
「あのっ…」
高く透き通った声音が辺りに響く。
その自分の声を認識して、少女ははっとした。
「あっ!」
呼び掛けられた少年は、こちらを振り向くとそこに居るはずもない
者の姿を目にして、驚いた。

「どうしてここに?」
そう聞いたのは金色の髪の少年。
少女は少年の方に歩み寄りながらこう答える。
「たぶん、キミとおんなじ」
少女はふわりと笑う。
「ってことは…」
「なんだか眠れなくて」
少年のすぐ隣でで、少女は立ち止まった。
「俺もっス!今日はいろいろあったつーか」
「うん。いろいろあったね」
一度大きく息を吸って、少女は次の言葉を紡ぐ。
「改めて自己紹介するね。私、ユウナ」
「俺、ティーダ」
ユウナはティーダの青い瞳を見据えた。
「寺院では助けてくれてどうもありがとう」
ペコリとお辞儀をすると、その滑らかな動きに合わせ、髪の毛がさ
らりと滑り落ちる。

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